製造業で「業務改善をしよう」と言われても、「何から手をつければいいのか分からない」ということがあります。
私は製造現場での作業だけでなく、現場管理や総務・人事にも携わってきました。管理する立場になると、日報、生産実績、人員配置、残業確認、会議資料、教育記録など、製造そのもの以外の仕事がどんどん増えていきます。
一番時間を取られていたのは、日報や会議資料、各種報告書の作成でした。現場を見たいのにパソコン作業に追われ、「管理するための書類に時間を使いすぎている」と感じることがよくありました。
特に気になったのが、生産実績を「会社へ報告する管理表」と「現場で使う管理表」の両方に入力し、同じ数字を二重で転記していたことです。毎日のことなので手間が積み重なり、「同じ情報を2回入力する必要があるのか」と感じたのが、見直しのきっかけでした。
この経験から気づいたのは、新しいツールを入れる前に、まず今の仕事を減らせないか考えることが大切だということです。そのときに使いやすかった考え方が、ECRSです。
この記事では、ECRSの4つの視点と、製造現場での改善例を紹介します。E・C・Sは私が実際に見直した例、Rは考え方の例です。
ECRSとは?
ECRSは、業務改善の順番を考えるための考え方です。
| 視点 | 意味 | 問い |
|---|---|---|
| E(Eliminate)排除 | やめる | この仕事は、やめられないか |
| C(Combine)結合 | まとめる | 別々の仕事を、まとめられないか |
| R(Rearrange)入れ替え | 順序・担当を変える | 順番や担当を、変えられないか |
| S(Simplify)簡素化 | 簡単にする | もっと簡単にできないか |
重要なのは、この順番で考えることです。
効率化というと、「速くする」「自動化する」ことを考えがちです。しかし、そもそも不要な仕事なら、速くするよりやめたほうが効果は大きくなります。不要な仕事を一生懸命自動化しても、改善効果は小さいままです。
1.Eliminate(排除)|まず「やめられないか」を考える
現場には、昔から続いている書類や確認作業が、そのまま残っていることがあります。「前からやっているから」という理由だけで続いている仕事です。
実際に見直した例
私が現場管理をしていた頃は、現場で使う管理表、生産実績表、管理者向け報告用、会議資料など、似た内容を複数の書類に記入していました。4種類ほどの資料を見比べると、生産数や残業、人員状況など、同じ情報が何度も出ていました。
そこで、上司や関係部署に「この資料は本当に別々に必要か」を確認しました。結果として、重複していた報告内容をまとめ、別に作っていた報告書の一部をやめることができました。
やめる前に必ず確認すること
「やめられないか」を考えるときは、勝手に廃止しないことが大切です。次のような記録は、不要に見えてもやめてはいけない場合があります。
- 法令で、作成・保存が必要な記録
- 顧客との取り決めで、求められている記録
- ISOなどの品質マネジメントシステムで、必要とされる記録
- 監査や、社内規程で求められているもの
廃止の前に、この書類は誰が、何のために使っているのか、必要な記録でないかを、関係者や担当部署に確認してください。
2.Combine(結合)|バラバラの仕事をまとめる
次に、別々に行っている仕事を、まとめられないかを考えます。
例えば、生産実績、人員状況、残業見込みを、別々の表で管理している場合です。管理者は、それぞれのファイルを開いて確認し、さらに会議資料へ転記することになります。
実際に見直した例①:二重入力の整理
冒頭で触れた「会社へ提出する管理表」と「現場で使う管理表」について、どちらの表で何を確認しているのかを整理し、重複している項目を減らしました。完全に1つへ統合できない部分は残しましたが、二重入力する項目を絞ることで、入力と確認にかかる手間を減らせました。
実際に見直した例②:別々の表を1つに
生産実績・人員状況・残業見込みを別々に集計していたものを、1つの管理表にまとめました。会議資料への転記も、1回で済むようにしました。
「生産はこの表、人員は別の表、残業はまた別」という状態だったものを1つにしたことで、管理者が何枚もの表を行き来する必要がなくなりました。
複数の表を行き来する必要が減るだけでも、管理業務はかなり楽になります。
3.Rearrange(入れ替え)|順序や担当を変える
※この項目は、実際の改善ではなく、考え方の例です。
3つ目は、仕事の順序や担当です。例えば、次のような流れがあったとします。
現場で紙に記入
↓
班長が確認
↓
事務所でExcelへ入力
↓
管理者が集計
入力できる環境が整っているなら、次のように変えられるかもしれません。
現場で入力
↓
管理者が確認
つまり、作業そのものを変えなくても、順番や担当を変えるだけで、ムダが減ることがあります。「誰が、いつ、どこで入力しているか」を、一度書き出してみると、改善点が見つかりやすくなります。
4.Simplify(簡素化)|できるだけ簡単にする
最後が簡素化です。Excelを使っていても、毎回コピー、計算、並べ替えをしていることがあります。この場合は、関数、条件付き書式、入力規則、ピボットテーブルなどで、簡単にできます。
実際に見直した例
各担当者から集めた生産実績・残業時間・不良件数を、Excelの1つの管理表で集計するようにしました。毎回手作業で転記・集計していたものを、関数や集計表を使って自動化しました。
正確な時間記録は残していませんが、毎回行っていた計算・転記・並べ替えが減り、会議資料を作る前の集計作業がかなり短くなりました。その分、現場確認や部下対応に使える時間を増やせました。
現場でECRSを使うときの質問
実際に見直すときは、次の質問を自分に投げかけてみてください。
| 視点 | 自分への質問 |
|---|---|
| 排除 | この書類は誰が見ているか。本当に必要か |
| 結合 | 同じ情報を、別の表にも入力していないか |
| 入れ替え | この作業は、もっと早い段階でできないか |
| 簡素化 | 手作業の部分を、テンプレート化できないか |
この4つだけでも、改善候補はかなり見つかります。
業務改善で失敗しやすいパターン
新しいツールを入れることが目的になる
紙、Excel、新システムの3つを使うようになれば、かえって仕事が増えます。導入するなら、何をやめるのかも一緒に決めます。
現場に聞かずに決める
管理者には便利でも、作業者の入力が増える場合があります。実際に使う人の意見を確認してください。
完璧を目指しすぎる
最初から工場全体を改善しようとすると、進みません。日報、点検表、教育記録など、1つの業務から始めましょう。
ChatGPTなどの生成AIでECRSを考える方法
現在の業務フローをAIに入力して、改善案を考えてもらう方法もあります。例えば、次のように入力します。
次の製造現場の業務を、ECRSの「排除・結合・入れ替え・簡素化」の4つに分けて改善案を出してください。ただし、安全と品質を低下させないことを条件にしてください。
【現在の業務】
紙の日報を記入 → 班長確認 → Excelへ転記 → 月末に集計 → 会議資料へ転記
これだけでも、「転記をなくせないか」「入力を1回にまとめられないか」といった改善候補を整理できます。
ただし、次の点に注意してください。
- 図面、製造条件、顧客情報、社員の個人情報などを入力してよいかは、会社のルールを確認する
- AIに最終判断を任せず、改善案のたたき台として使う
- 安全・品質・法令に関わる内容は、必ず担当者が確認する
まとめ|改善は「やめる」から考える
製造業の業務改善では、便利なツールを増やす前に、E(排除)、C(結合)、R(入れ替え)、S(簡素化)の順番で考えてみてください。
特に重要なのは、「この仕事は本当に必要か?」と最初に考えることです。毎日10分かかっている仕事を5分にするのも改善ですが、その仕事自体をなくせれば、10分すべてを削減できます。
まずは、日報、集計、会議資料、点検表など、毎日繰り返している仕事を1つ選び、ECRSで見直してみてください。
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