製造業の現場リーダーになると、部下へ注意しなければならない場面があります。
作業手順を守っていない。報告が遅れた。確認を忘れた。同じミスを繰り返した。
こうしたとき、「強く言わないと伝わらない」と思うこともあります。一方で、言い方が強すぎると、次のような問題も起こります。
- 部下が話しかけなくなる
- 報告をためらう
- 人間関係が悪くなる
私は、製造現場で班長として班を管理する中で、部下への伝え方に何度も悩みました。そこで感じたのは、「注意すること」と「怒ること」は別だということです。
あるとき、同じミスが続く部下に、どこまで強く言うべきか悩んだことがありました。厳しく言いすぎると、部下が話しかけにくくなります。かといって、やわらかく伝えすぎると、改善につながりません。伝え方の難しさを感じました。
最近は、パワハラを心配して、指導を控える場面が増えていると感じます。しかし、指導しないままでは、部下は育ちません。立派な社会人になってもらうために、私はしっかり指導して育てることを意識しています。そのために必要なのが、怒るのではなく、伝わる形で注意することです。
この記事では、「注意」を、同じ問題を繰り返さないために、行動を直してもらうこととして書きます。感情をぶつけることは、注意に含めません。現場リーダーが部下を注意するときに意識したい5つのポイントを紹介します。
作業手順を守っていないように見えたため、本人に確認しました。すると、手順書どおりだとやりにくいため、現場では実際には別の手順で作業していることが分かりました。本人だけの問題ではなく、教育の方法や手順書にも改善点があると気づきました。
1.まず事実を確認する
ミスや問題が起きたとき、すぐに注意したくなることがあります。しかし、最初に確認したいのは、本当に本人だけが原因なのかということです。例えば、「作業手順を守っていなかった」という場合でも、次のような背景があるかもしれません。
- 手順書が分かりにくかった
- 指示が途中で変わった
- 設備トラブルがあった
- 教育が十分ではなかった
本人の話を聞かずに決めつけると、本当の原因を見逃します。まず、「何があったのか教えて」と状況を確認します。そのうえで、注意すべきことがあれば伝えます。
ミスの内容だけでなく、「早く報告してくれたことは助かった」と伝えるようにしました。すると、小さな異常でも、早めに相談してもらえる場面が増えました。そのなかで、大きな品質問題につながる事象を、社内で止められたこともありました。問題が大きくなる前に対応しやすくなり、報告しやすい雰囲気づくりの大切さを感じました。
聞き方にも気をつける
ミスをした部下に、「なんでできなかったの?」と聞くと、責められているように感じることがあります。私は、次のような聞き方のほうが、原因を確認しやすいと思います。
- 「どこで迷った?」
- 「やりにくかったところはあった?」
- 「次はどうしたら防げそう?」
本人から「ここが分からなかった」と言ってもらえれば、教育や手順を見直すきっかけにもなります。
同じミスが続くなら、仕組みも確認する
一度なら、本人の確認不足かもしれません。しかし、複数の人が同じミスをするなら、仕組みの問題も疑ったほうがいいです。
- マニュアルが分かりにくい
- 確認項目が多すぎる
- 似た帳票がある
- 作業手順が複雑
「もっと注意してください」だけでなく、間違えにくい仕事にできないかを考えることも、管理する側の役割です。ここは、新人教育や業務改善にもつながります。
2.人ではなく「行動」を注意する
注意するときに避けたいのが、次のような言い方です。
- 「あなたはいつもダメだ」
- 「なんでこんなこともできないの?」
これでは、問題となった行動ではなく、本人そのものを否定する形になってしまいます。例えば、「確認せずに次工程へ流したことが問題です」のように、何が問題だったのかを具体的に伝えます。
- ×「あなたは注意力がない」
- ○「今回は確認工程が抜けていた」
こう伝えると、本人も、何を直せばいいのかを理解しやすくなります。
3.なぜ改善が必要なのかを伝える
現場では、「ルールだから守って」だけで終わることがあります。もちろん、ルールを守ることは必要です。ただ、なぜそのルールがあるのかまで伝えたほうが、理解されやすくなります。例えば、「検査記録を書いてください」だけではなく、次のように説明します。
「あとで品質問題が出たときに、どの製品・どのロットまで影響範囲を広げて確認すべきか判断できるように、記録を残す必要があります。記録がないと、いつからいつまでを対象にすべきか、網かけ範囲が分からなくなります。」
安全面でも同じです。「保護具を着けなさい」ではなく、次のように伝えます。
「保護メガネを着けてください」だけではなく、過去に切粉が目に入り病院を受診した事例が何度もあったことまで伝えるようにしていました。理由を具体的に説明すると、単なる決まりではなく“自分を守るためのルール”として理解してもらいやすくなります。
理由が分かると、単なる指示ではなくなります。
4.次の行動まで伝え、その後もフォローする
注意だけして終わると、本人には「怒られた」という印象だけが残ることがあります。そこで重要なのが、次回の行動まで決めることです。
「次からは、作業開始前にチェック表を確認してください」
「判断に迷ったら、そのまま進めず、班長へ相談してください」
注意の目的は、過去のミスを責めることではなく、次の行動を変えることです。
注意したあとも声をかける
注意した直後だけでなく、その後も確認します。例えば、数日後に「この前のところ、その後どう?」と声をかけます。問題なくできていれば、「ちゃんと出来ているね」と伝えるだけでも違います。注意するときだけ話しかけるリーダーになると、部下は話しかけにくくなります。
報告しやすい雰囲気を作る
製造現場で特に避けたいのは、ミスを隠すことです。小さなミスを早く報告してもらえれば、被害を広げずに済む場合があります。ところが、「報告すると必ず怒られる」と思われると、「少し様子を見よう」となってしまう可能性があります。
だからといって、ミスを放置するわけではありません。問題点はしっかり伝えながらも、早く報告したこと自体は評価するという考え方も必要です。
「ミスは直す必要があるけれど、すぐに報告してくれたのは助かった」
この一言だけでも、次回の報告のしやすさは変わります。
以前は、異常品が出ても作業者からすぐに報告が上がらず、私が不良品の中から異常を見つけて確認することもありました。そこで、「異常品が出たら速やかに報告する」ことを繰り返し伝え、報告したこと自体も評価するようにしました。その結果、少しでも異常を感じた段階で作業者から報告が上がるようになり、早い段階で確認や対応ができるようになりました。
5.人前で必要以上に注意しない
安全上すぐに止めなければならない場合を除き、人前で強く注意することは、避けたほうがいいケースがあります。他の社員がいる前で強く叱られると、内容よりも「恥をかかされた」という感情が残ることがあります。
少し場所を変えて、事実、問題点、今後どうするかを、落ち着いて話すほうが伝わりやすい場合があります。
もちろん、危険な作業をしている場合は、その場で止める必要があります。安全確保と指導の場面は、分けて考えることが重要です。
私の場合は、幸い、注意してもあまりきつく受け取られないことが多かったと思います。ただ、それは、相手や状況に恵まれていた面もあります。同じ言い方でも、人によって、その日の状況によって、受け取り方は変わります。だから、「自分は大丈夫」と思わずに、事実を伝える、行動を注意する、といった基本を意識するようにしています。
人によって、受け取り方は違う
班長として難しかったのは、人によって受け取り方が違うことでした。同じ言い方でも、「分かりました」とすぐ切り替えられる人もいれば、かなり落ち込む人もいます。反対に、遠回しに伝えると、まったく伝わらない人もいます。
そのため、「全員に同じ言い方をすればいい」とは限りません。ただし、誰に対しても共通して意識したいのは、感情ではなく事実を伝えることです。その方が、注意する側も冷静になりやすくなります。
指導を避けない。ただし、やり方は選ぶ
パワハラを気にして、指導を控えるリーダーもいます。しかし、必要な指導をしないと、部下は同じミスを繰り返し、成長の機会を失います。製造現場では、安全や品質にも関わります。
業務上必要で、適切な範囲の指導は、パワーハラスメントには当たらないとされています。一方、人格を否定する言い方や、大勢の前での必要以上の叱責は、ハラスメントと受け取られるおそれがあります。この記事で紹介した5つのポイントは、指導を避けるためではなく、指導を、相手に伝わる形で行うためのものです。
自分の指導が適切か迷うときや、同じ部下に繰り返し指導が必要なときは、上司や人事、社内の相談窓口に相談してください。具体的な内容は、厚生労働省などの公式情報や、社内の規程で確認してください。
まとめ|注意の目的は「次の行動を変えること」
部下へ注意するときは、感情的に怒ることが目的ではありません。大切なのは、次の5つです。
- 事実を確認する
- 人ではなく行動について伝える
- 理由を説明する
- 次の行動を決め、その後もフォローする
- 必要以上に人前で叱らない
そして、「次にどうすれば同じ問題を防げるか」まで、一緒に考えます。パワハラを恐れて指導を避けるのではなく、伝え方を磨いて、しっかり育てる。それが、現場リーダーの役割だと思います。
製造現場では、ミスを完全にゼロにすることは簡単ではありません。だからこそ、ミスを早く報告できる、原因を確認できる、次につなげられる職場を作ることが大切です。


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